新会社発足以来、急ピッチで準備を進めてきた開幕戦。チームカラーのブルーで染まったスタンドを背に、牛島さんは笑顔を見せた=5日、鳥栖スタジアム


 5日、鳥栖スタジアムであったサッカー・J2開幕戦「サガン鳥栖―アビスパ福岡」。午前11時の開門を前に、雪の舞うグラウンドの周りを埋めた22枚のピッチ看板と常設看板九枚一つひとつに頭を下げた。
 
 運営会社「サガンドリームス」の営業スタッフ牛島洋太郎さん、68歳。会社が始動し約1カ月足らず、社員総出の営業活動が実り、昨年の3倍以上の看板を並べることができた喜びをかみしめた。
 
 

■営業一筋

息子のような年齢のスタッフたちと多忙な毎日を送る。企業回りに加え、今はチケット発送に追われている=鳥栖市の「サガンドリームス」事務所
 「営業一筋」の人生を歩んできた。佐賀高から東京の大学へ進み、1962年に帰佐。高度成長を背景に、国内は旅行ブーム。そんな時代の流れに乗ろうと、大学の先輩らと佐賀市内で観光会社を設立した。
 
 「飛び込み」中心の外回り。2度、3度断られても、地道に通いつめるうちに「脈」が生まれてくることにやりがいを感じた。大手代理店が手を付けていなかった中小企業の社員旅行に狙いを定め、徐々に販路を開拓。添乗員もこなし、丁寧な仕事ぶりから信用は広まり、学校から修学旅行の依頼も相次いだ。

 しかし、しょせんは従業員4人の零細企業。他社との経営体力差は明らかで「あっせん手数料だけでは生活できない」と見切りをつけ退職した。

 1967年、福岡の飲料販売会社に転職。"足で稼ぐ"セールスを続けた。営業成績は入社後から常に5位以内。業績が認められ、赤字続きだった同社の香港法人に営業部長として出向し再建を託されたことも。本社の強い反対を押し切り、高コストの宅配制度を廃止するなど改革を断行。販売を現地人スタッフに任せ、業務の効率化に努めた。

 福岡に戻り、2000年まで専務を務め、引退。春と秋は阿蘇の野焼きボランティアに出かけたりと忙しく第2の人生を送っていた2002年夏、サガンがスタッフを募集していることを聞いた。会社員時代の実績を知る知人から「(クラブは)人員不足で困っているらしい。今度は地元のために頑張ってみたら」と持ちかけられた。

 だが、クラブは毎年のように存続か解散かをめぐって混迷が続いた。具体的なビジョンを示さない経営陣と株主、サポーターとの溝は深まるばかり。小口株主が大多数ということもあり、株主同士の対立も事情を複雑化。プレーよりも"お家騒動"がクローズアップされた。

 企業を回るたび「チームはどうなるの」と先行きをいぶかる質問ばかりで、話はまともに聞いてもらえなかった。これまで培ってきた自信が覆されてしまう気がした。それでも「状態の悪いところに身を置くことは慣れてるから」。傾いた会社を立て直した自負もあり、音を上げなかった。

 

■社長に直訴

 体制が代わり、2月初めにあった新会社のスタッフミーティング。メディアには連日、井川幸広社長の斬新なアイデアを伝えるニュースが登場し、「好イメージ」を植え付けることには成功していた。だが「代わったのは経営母体だけじゃないことをアピールしなければ何もならない。広告の埋まったスタジアムでインパクトを与えたい」と社長に直訴。全員営業の命が下り、他業務は先送りにして早朝から企業回りを続けた。
 
現在、社員は7人。スポーツマネジメント会社でキャリアを積み、あこがれだったJクラブのスタッフとなった運営担当者をはじめ、スペインにサッカー留学経験のある下部組織担当者や、元新聞記者の広報担当者もいる。経歴はさまざまでもサッカーを愛する気持ちは同じ。そんな仲間たちと仕事をともにするうち、決して"サッカー命"ではなかった自身も地元にプロスポーツチームが存在することの価値をかみしめている。

 「来年、看板数が減ってはどうにもならないからね。幸い、体も丈夫だし頑張れそう。まだまだ青春」。「生涯一現役」を誓う営業マンは、スーツにスニーカー姿できょうも得意先を走り回る。


 

◇Jリーグクラブの規模◇

 JリーグのクラブはJ1、J2合わせて全国に30チーム。昨シーズン、J1第2ステージを制した浦和レッズを運営する「三菱自動車フットボールクラブ」は約50人体制で、年間予算も50億円強と資金も潤沢。
 J2では京都パープルサンガが約30人で運営。株主に京セラ、任天堂をはじめ大手企業が名を連ね、ピッチ看板も約50枚設置されている。
 「サガンドリームス」には運営、強化、営業、広報、下部組織、チーム主務の7人の社員がいるが、実際はそれぞれの業務だけでは追いつかず、担当を兼務しながら、どうにか「やりくり」している状態。今季の運営費も約4億円でスタッフ数、予算ともにリーグ最低レベルだ。
 井川幸広社長がフロントに常駐できないため、現在は広報担当者が現場を総括している状態。運営規模が拡大した際の人員体制や専任の「陣頭指揮者」配置など組織面の整備はこれからだ。